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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2319号 判決 1963年3月28日

控訴人 野上正司

被控訴人 日本興国株式会社 外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。本案判決にいたるまで、被控訴人植木晴は被控訴人日本興国株式会社の取締役兼代表取締役の、被控訴人加賀恒夫、同植木ソメは同会社の取締役の、被控訴人斎藤忠義は同会社の監査役の各職務をそれぞれ執行してはならない。右期間中取締役兼代表取締役、取締役、監査役の各職務を行わせるため裁判所は適当な職務代行者を選任する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴代理人において

一、控訴人は、被控訴会社設立当初の取締役であり、その任期(昭和二八年二月に招集する定時株主総会の終了まで)満了後も商法第二五八条第一項により取締役の権利、義務を有してきたが、昭和二八年一一月三〇日他の五名とともに再び取締役に選任(同年一二月二一日その旨登記)された。そしてその任期は定款により就任後第二回目の定時株主総会終了まで、すなわち昭和三〇年二月に招集される予定の定時株主総会終了までのところ、その株主総会は招集されなかつたから控訴人は前記商法の規定によりその後においても取締役の権利、義務を有してきたものである。

二、しかるに、被控訴会社は昭和三五年二月一日および同年八月五日に開かれた株主総会において被控訴人らを代表取締役、取締役、監査役等に選任したとして、その頃その登記をしたのであるが、控訴人は前記のように右総会当日まで取締役の権利、義務を有してきたものであるから、その地位にもとづき本件株主総会の決議が存在しないことの確認を求める訴訟を提起しうる適格を有する。

三、よつて、被控訴会社を除くその余の被控訴人らに対しては右取締役の地位にもとづく主張を当審において本件仮処分申請の理由として附加する。

かように述べ、被控訴代理人において右主張事実を否認したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、それを引用する。疎明<省略>

理由

一、本件仮処分の申請について当裁判所のなす判断は、原判決理由第二項のうち「記録四〇二丁表九、一〇行目」の「および会社設立後昭和三〇年一月三〇日までその取締役となつていたこと」とある部分、「記録四〇二丁十行目から同裏二行目まで」の「これらの事実は申請人が実質上も発起人である事実を推測させる以外にその名義を貸し与えたことともさまで矛盾するものでなく、それにふさわしい対外的行動をしたとみる余地すらある。これに反し、」とある部分、「記録四〇三丁表末行から同裏二行目まで」の「ので、これらから推すると申請人は寅吉の依頼により当時設立発起人の名義を貸し与えたものにとどまるとみるのが相当である」とある部分、ならびに同第三項の全部を削除し、左記事項を補足するほかは、原判決理由に記載するとおりであるから、ここにその記載を引用する。

二、被控訴会社に対する申請の当否

本件仮処分の申請は「昭和三五年二月一日被控訴人植木晴が被控訴会社の取締役兼代表取締役に、被控訴人加賀恒夫および申請外亡植木寅吉が同取締役に、被控訴人斎藤忠義が同監査役に、同年八月五日被控訴人植木ソメが同取締役に各就任した旨登記簿に記載があるが、これら役員を選任する株主総会の開かれた事実がないから、右株主総会決議不存在確認請求の訴を本案とし、その判決確定にいたるまで、右役員の職務執行の停止と職務代行者の選任を求める」というのである。しかし、右本案訴訟において相手方(被告)を被控訴会社とする理由は首肯できるが、本件仮処分の相手方(被申請人)に被控訴会社を加える何らのいわれはないと考える。けだし、職務の執行を停止しようとする当該役員を相手方とするだけで仮処分の目的を達成するに必要かつ十分であるからである。そうすると、被控訴会社を相手方とする本件仮処分の申請は他の争点に関する判断をまつまでもなく失当であつて却下を免れない。

三、被控訴会社を除くその余の被控訴人らに対する申請の当否

(一)  株主たる地位にもとづく主張について

甲第一号証の一ないし三、控訴本人の原審ならびに当審における供述によれば、控訴人が被控訴会社の定款に発起人として記名押印し、発起人となつたことおよび被控訴会社の設立事務についても事実上関与したことが疎明される。

しかし、当裁判所は原審が事実認定に供した資料と乙第九ないし一三号証、原審ならびに当審における被控訴本人植木晴の供述を綜合し、結局控訴人は被控訴会社の発起人でありながら、同会社の株式を引受けることなく、従つてその株主とはならなかつたものであり、ただ、植木寅吉が株式を引受けるに当たり同人の依頼によつてこれに引受人たる名義を貸与したに過ぎないものであると認定する。右認定に反する当審証人野上君枝および控訴本人の供述部分はそのまま信用できないし、その余の疎明では右認定を動かすに足りない。

ところで、商法第二〇一条第二項の場合、引受人となる者は、名義を貸与した者か、名義を借受けた者かについては説の岐れるところであるが、同条第一項との関係からみると、名義を借受けた者を引受人とし、名義の貸与者は単に借受人と連帯して払込義務を負担するに過ぎないものと解するのを相当とする。けだし、払込義務は株式引受契約の効果として発生し、その効果は本来引受契約の当事者が負うのが当然であり、法は、当事者が引受に当たり、仮設人の名義を用い、或いは実在する他人の名義をその他人の承諾を得ないで用いた場合、株式引受の集団性に鑑み、責任の所在を明確にする意味で、前記第二〇一条第一項を設け、さらに、資本の充実を図るため、他人の承諾を得てその名義で引受けがなされた場合には承諾者にも払込義務につき連帯責任を負担せしめるのを相当として、同条第二項を設けたものと考えられるからである。右判断と異なる原審の見解は採用できない。

そして、本件に顕われた全疎明によつても被控訴会社の株主名簿に名義貸与者である控訴人が株主として登載された事実を認めることができないので、前記のように控訴人は結局被控訴会社の株主にはならなかつたものと判定した次第である。

そうすると、控訴人が株主であることを前提とする本件仮処分の申請は失当であつて却下を免れない。

(二)  取締役たる地位にもとづく主張について

甲第二号証によれば、控訴人は被控訴会社の設立と同時に取締役に就任し、その後昭和二八年一一月三〇日取締役に重任した旨登記されていることが明らかである。しかし、当裁判所の措信しない原審ならびに当審における控訴本人の供述を措いては、控訴人が被控訴会社の創立総会ないし株主総会において取締役に選任されたことも、さらに取締役としての職務に従事したことも疎明されないばかりでなく、当審における被控訴本人植木晴の供述によれば、控訴人は被控訴会社に取締役名義を貸与したに過ぎないことが窺われるのである。

そうすると、控訴人の取締役であることを前提とする本件仮処分の申請も失当として却下を免れない。

四、むすび

控訴人の本件仮処分の申請をすべて却下した原判決は結局正当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 大場茂行 町田健次 下関忠義)

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